深い闇
「…貴方にそういう趣味があるとは思いもしませんでしたよ」

 呟くバグダッシュの瞳は虚ろだ。
 ベッドの上で服を脱がされる事も、体中を撫でられる事にも関心が無さそうに見える。
 といっても不感という訳ではないようで、触れた胸からは熱い鼓動が伝わってきた。

「趣味なんかじゃないさ」

 それでも続けるのは、この男が逃げないからだ。
 そっちが趣味なんじゃないかと聞きたくなる。
 ベッドの上なら、体に聞くのが手っ取り早かった。

「……はぁ…っ…」

 指先や舌でじっくりと追いつめる。
 泣き縋って懇願させるのも楽しいかもしれないが、別にそんな会話をする為に抱いているのではない。
 これは彼を行動不能にする為の手段なのだ。
 気を失うまで抱いて、あとはタンクベッドにでも放り込んでおけばいい。
 その為にこんなにまわりくどい事をしなくても良いとはもう気づいているが、趣味だとは認めたくなかった。
 …趣味で抱いているんじゃない。
 だが愛はもっと違う、それはありえない。
 もちろん、この俺が飢えている筈がない。
 流れで、こうなっただけだ。
 相手も、そう思っているだろう。
 二人して、引きどころを見失ったのだ。

「…あっ……」

 両足を開かせると、これまで無関心を装ってきたバグダッシュも流石に動揺を見せた。
 蕾に直接ローションをたらすと、冷たさに太腿の内側が震える。
 片腕で足を閉じないように固定しながら、まずは秘所の周辺を撫でた。

「あ、…ひゃぅ…ん……っ」

 随分と可愛らしい鳴き方をする。
 無関心は本性を隠す為の仮面だったのだろうか。
 ストイックに見せて正体は淫らな工作員というのは、安っぽいが面白い。

「ぅあ、ああ…っ」

 くぷり、と音を立てて侵入した指にバグダッシュはやや過剰に反応を示した。
 中を掻き混ぜれば止めどなく嬌声が溢れて、掴みかけていた正体が朧げになる。
 何をしていても、演技に見えてきたのだ。

「ちっ…」

 指を増やして前立腺を激しく擦れば、バグダッシュは悲鳴を上げて絶頂に達した。……ように見えた。
 ……よく判らない。
 とろりとした灰青の瞳をみつめても、変に焦った自分が映るだけだ。

「探しても無駄ですよ。私は、空っぽなんですから」

 そう言ってバグダッシュは酷く病んだ笑みを浮かべた。
 死を間近に控えさせたような妖しい微笑みは、以前にもどこかで見掛けた事がある。
 それが20年も前の子供だと分かるのには、さすがに時間がかかった。
 それでも思い出せただけ表彰ものだろう。

『お前が生きて変わるものがある』

 半分は気休めで囁いた言葉が、彼をここまで生かしてきた。
 そして今、死して国を変えようとしている。
 …もう一度その命を繋ぎ止めたいと願った。

「…っあああ……っ!!」

 解したとはいえ本来は雄を受け入れる場所ではない。
 快感よりも痛みが先攻しているのだろうバグダッシュを宥めるようにキスしながら馴染むのを待つ。
 ぎゅっと背中に腕を回されるのを感じて、ゆっくり動いた。
 バグダッシュが良いようにリズムや角度を変えながら、何度も奥を穿つ。
 やがて互いに限界を迎えた。



「…大丈夫か」

 莫迦らしい事を聞いている気がしたが、ベッドに沈む男に声をかける。
 掠れた声で戻ってきた返事は「全然」
 それはどっちの意味なんだとからかってやりたかったが、あまりにも見れば分かる状態だったのでやめた。

「ほら」

 水の入ったグラスを差し出すと、のろのろと体を起こしどうにか受け取った。
 特殊な睡眠薬を溶かしていた事に彼が気づいたのは、一息に1/3程飲み干してしまってからだ。

「…くそっ」

 吐き出そうとするのを抑えつけて、強引に続きを飲ませる。
 即効性もある睡眠薬の効果に、疲れた体は静かに従った。
 …これで2週間は目を覚ますことはないだろう。
 そっと瞼に口づける。
 深い闇の中で、夢も見ずに眠って欲しかった。






















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