闇夜
「ユリアン、どうしたんだ?」

 メディカルルームを出たところで、アッテンボロー提督と出会してしまった。

「あの、えぇっと…」
「さてはお前さんも、ゴシップの匂いを嗅ぎ付けたな?」

 そう言うとアッテンボロー提督は遠慮なくメディカルルームに踏み込んで、更に遠慮なく(というよりも不躾に)仕切りのカーテンを開けてしまった。

「ああ、バグダッシュ中佐はここで寝ていたのか」

 中佐の痣にアッテンボローは気づくかもと僕はドキドキしていたのだけど、提督はそれには気づかなかったみたいだ。
 でも何か考えこんでいる顔で、しばらく黙っている。

「ユリアン、13事件って知ってるか?」
「13事件ですか?いえ…」
「まぁユリアンは生まれてなかったしなぁ…」

 提督は小さく呟くと提督はカーテンを何事もなかったように、そっと閉めた。
 僕は提督に13事件について聞きたかったのだけど、提督がなんだか辛そうにも見えたので止めた。

「なぁユリアン、グリーンヒル大将は間違っていると思うか」
「…僕にはよく分かりません。救国軍事会議は独裁的で嫌だけど、僕たちは“政治家”の味方になる事には疑問を持っています」
「……そうだな」



 その日のうちに僕は資料室へ足を運んだ。
 13事件。きっと軍絡みの大きな事件かと予想していたのだけど、調べて分かったのは20年前に1人の女性が殺害されたという事だ。
 歴史家志望の女学生。上品な顔立ちに薄曇りの瞳。
 彼女の名前と写真を見た時、僕は自分の手がじっとり汗ばんでいくのを感じた。

 Ofanim Bagdash

 バラバラにされた体がハイネセン13カ所で見つかった事と、イニシャルのBが1と3で書ける事から13事件。
 遺体は全て、一緒にさらった弟にばらまかせていたそうだ。
 情報はゴシップ誌からしか得られなかったけど、この弟というのはおそらくバグダッシュ中佐の事だ。
 ……そういえば、どうしてゴシップ誌しかこの事件のデータがないんだろう。
 もっと大きく新聞で取り上げられてもいい筈なのに。
 頭をひねる僕の前に訪れたのは、シェーンコップ准将。
 資料室にくるには少し意外な人物だった。

「調べものか、坊や。13事件とは懐かしいな」
「この事件、迷宮入りしてるそうですね」
「5年前に時効がきてな。…ちょうどグリーンヒル大将とバグダッシュ中佐が会った時期と重なるか」

 バグダッシュ中佐はグリーンヒル大将に現体制に対して不満を零していたそうだ。
 もしかして13事件のデータが少ないのは、揉み消されてしまったという事なんだろうか?

「…准将はどうして資料室へ?」
「坊やとそう変わらない歳に子猫を拾ってな。一晩で出て行ってしまったが、その後どうしていたのか気になった」
「…生きていて、嬉しかったですか」
「死を好む程イカれちゃいない。…坊や、戦いに正義と悪があるなんて思わん方がいい、そういう奴は大概壊れる」



 …帝国でローエングラム侯といえば、弱者の希望で英雄だ。
 でも、同盟では殆どの人は知らないけどクーデターの黒幕。
 天才とは思うけど、僕は今のところ好きになれないんじゃないかと感じている。
 正義と悪は表裏一体で同じものが感情で違って見えるのか、それとも正義も悪も存在しないものなのか。
 この事はきっと、これからも考えていかなければならないのだろう。
 でも今の僕に出来る事と言えば、僕の師匠たちを信じる事だけだ。

 だから僕は、ちょっと遊びの過ぎる准将の事を信じようと思う。
 ……たとえ誰かにとっての悪であっても。




次こそバグを起こしたい。。。




















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