珈琲をもう一杯だけ |
ダスティ・アッテンボローはフェミニストである。
もっと言うなら、フェミニストとして育てられたのだ。
彼の3人の姉たちは、ローゼンリッター並みのフェミニスト教育を弟に施した。
例えば、レディの荷物は持つこと、デパートの扉は開けてあげること、道路では車道に近い方を歩くこと、エトセトラエトセトラ。
その教育は徹底的に仕込まれており、つい出てきてしまう域にまで達していた。
「食器は、俺が洗うよ」
それ故アッテンボローはキャゼルヌ夫人からもミンツ女史からも評判が良い。
騒ぎの中にいたがる性格を除けば、モテる要素は揃っているのだが現在恋人はいない。
この事に関しては、理想が高いだとか、姉たちのせいで女性恐怖症なのだなど、色々囁かれている。
(まあ、あまりいい趣味ではないかもしれないな…)
食器を洗うアッテンボローのすぐ傍でバグダッシュがフレーバーコーヒーをいれ始めた。
その横顔、滑らかな肌は菜食主義者のせいもあるのか肌理細かく美しい。
彼女が何故菜食主義となったのか、アッテンボローはもう感づいていた。
幼い頃の、恐怖体験。
ゴシップ紙は血を飲まされただの、肝臓を食わされただのと好き放題書いていたが、遠く離れていた訳ではなかったのだろう。
「キャラメルラテです」
「ん、ありがとう」
テーブルに戻り、白いカップに入ったカフェラテを楽しむ。
キャラメルの香りと甘みが舌に残るカフェラテは、紅茶でいえばユリアンヌ並みの腕前だ。
皆が知らないバグダッシュを、自分は知っている。
自慢したいような隠しておきたいような、秘密基地をみつけた感覚に似たくすぐったさがたまらない。
まだ信用が置かれていないバグダッシュと、もし付き合うようなことになったら周りは止めるだろうか?
(悪趣味でも、いいけどな……)
ポプランやシェーンコップに群がる女性たちの事が少しだけ理解できるような気がした。
惹かれる心は、止められないのだ。
この難しい女性の傍にいたい。
カップを受け取る際、僅かに触れた手の柔らかさに願った。
end
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