変わっていない気持ち
なんとか中佐を海に誘い、ヴィジフォンの前でホッと一息つく。
これくらいで喜んだりしてはイゼルローンの双璧が笑うだろうが、ダスティ・アッテンボローにとしてはかなり頑張っている部類だ。
父親であるパトリック・アッテンボローは、ヴィジフォンでの会話を聞かなかったふりをして、静かにリビングへ戻りソファに腰掛けた。

「父さん、バグダッシュ姉妹の事件で何か覚えてないかな?」
「覚えているさ、あれは酷いものだった」

777年5月末、捜索願の出ていた姉妹のうち姉の方の首がハイネセンの宇宙港に放置されていたのが事件の始まりだった。
その後、腕や足などがハイネセンの各地で次々と発見され、未発見だった心臓を抱えた妹を保護して事件は止まった。

「止まった?止まったってどういう事なんだ?」
「そのままだよ、ダスティ。共犯者らしき者は捕まったが証拠不十分で不起訴。妹の証言も退けられた」
「退けられた……?」
「俺は少女の話しを聞いて記事にした。そうしたら原稿は破棄され、クビになった。政治家ってのは何時から戦場には出ないし、地上で好き勝手出来るようになったんだ?…ダスティ、彼女は言ったんだよ、“もう1人の男はトリューニヒトと呼ばれていた”ってさ」

あのトリューニヒトと関係あるのかどうか。権力の使い方を見れば分かるような気がした。家族か、親戚か、…本人か。どれにしてもおぞましい。
中佐がクーデターに加担した理由は、この事件以上のものではないだろう。
ずっと昔から中佐は戦っていたのだ、癒えない傷を抱えながら。

「ダスティ、お前、セラフィムちゃんに会ったのかい?」
「…会った。救国軍事会議にいたけど、今はヤン艦隊の一員だ」

パトリック・アッテンボローにとって、バグダッシュ姉妹の事件は人生を決定したと言っていい。
声も出せず食事も喉を通らない程の精神的衝撃を受けた少女の姿に、パトリックは正しいジャーナリストであろうと決意したのだ。力強い真実と、優しい正義を語る者であろうと。
それは何度上司と衝突し、何度クビになろうとも構わない程の固い決意で、今でも変わっていない。

「そうか…ダスティ、覚えてるか?あの子を一目見た時、自分が何を言ったかを」

少女がこれからずっとトラウマに悩まされることになるだろうと聞いて、幼い少年は言ったのだ“守ってあげたい”と。
それを聞いた少年の父は“さすが男の子だ”と少年を誉めたうえで、“お前があの子の王子様なら、必ず会える日が来るよ”と言ったのだ。

「お前、ソリビジョンで見たあの子に、一目惚れしたんだよ」

どうやらあの日の言葉は、意外にも現実となる日が近いらしい。


この調子で今までの記事に書いた自分の希望も、本当になりはしないだろうか。


……なるかもしれない。


なんせ我が息子は魔術師の側にいるのだから。



「なに笑ってんだよ、親父」
「いや、そろそろ孫が見たいなぁと思ってな」

〜私には夢がある。
 私と、私の妻と私の娘と私の息子と
 私の孫たちで食卓を囲むことだ〜



end



















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