精神安定剤
バグダッシュは肉が嫌いだ。
食べる事が出来ないだけでなく、触れる事も出来ない。
幼い頃、姉を切り刻むのを手伝わされたのが原因で今でも吐き気がこみ上げ、身体が震えるのだ。
悪夢にうなされる事も多く、睡眠薬や戦闘中でもないのにタンクベッドの世話になる事も多々ある。
だがこの2ヶ月程はその回数も減っていた。

だから油断していたのかもしれない。

目覚めたバグダッシュの肌は汗で全身湿っていた。
心臓もこれ以上ない程、速くなっている。
息が切れ、全力で走ってきたかのようだ。
鏡を見なくても、顔色が良くない事は分かった。

「………」

気分は最低だが、シャワーを浴びなくては。
ベッドから下りたところで、ドアフォンが鳴った。
アッテンボローが来たのだ。

「早すぎますよ……」

時刻は9時でけして早いとは言えないのだが、それは置いといて。
無視する訳にもいかず、バグダッシュはロックを解除した。
かけられた言葉は「おはよう」よりも先に「大丈夫か」
どうしてこの男はこんなに、自分の顔色に敏感なのだろうか。
ベッドに戻されながら、疑問と同時に嬉しくも思ってしまう。

「すみません、わざわざ迎えに来ていただいたのに」
「気にするなよ、中佐の体調の方が大事なんだからさ」

優しい言葉をかけながら、頬にかかっていた髪を指先で払う。
細かな気配りが出来る男だと、感心した。
きっと自分がうなされていたら、起こしてくれるのだろう。
そこまで考えると、このまま優しい手を感じながら眠ってしまいたい気もしたし、柔らかな声で起こされてみたいような気もしてくる。

「寝ていいよ。夕方の海も綺麗だし、夜だって悪くない」

何故こんなにも優しくしてくれるのだろう。
質問は睡魔に負けて出来なかった。
答えを本当は分かっているが、自惚れであるかもしれない。

でも、もしかしたら。

アッテンボローの手を握りながら、バグダッシュは甘い夢を見た。



end



















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