君が好きだよ
「……中佐?」

呼びかけに、返事はない。
どうやら本当に眠ってしまったらしい。
信用されているのだと思えば嬉しいが、男として見られていないのではないかという不安もある。

(いやいや、ここで弱気になっちゃ駄目だろう!)

自分を励ましながらアッテンボローは、バグダッシュの手を握り直した。
信じられないくらい細い指のような気がしたが、女のコとは皆こんなものだった ろうか?
彼女がいたのが随分昔すぎて、上手く思い出せそうになかった。

(キレーな顔だよなぁ…)

眠っている顔は穏やかで絵画のようだ。華美ではないが、形の良い顔に上品なパ ーツが並んでいる。
そっと頬に触れようとして、アッテンボローは慌てて手を引っ込めた。
ほんの少しでも触れてしまえば、築き上げたものが音をたてて壊れる気がした。
それだけは、絶対に避けねばならない。
保身のためではなく、彼女のためにだ。
深い傷が彼女を妖しく演出しているのだとしても、致命傷になる程の傷は必要な い。
守りたい、純粋にそう想える女性に出会う日が来るとは思ってもみなかった。
姉たちを見る限り、女性というのは男より遥かに強い生き物であったから。

(本当は、違ったのかもな)

誰にも弱さがあって、それを隠そうというプライドや、心配させまいという心の 強さがあるんだろう。
子供だから、それに気付かなかっただけで。

「俺はもう、子どもじゃないよな?」

自分が持つ弱さに、バグダッシュはいずれ気づいてしまうだろう。
その時に自分は隠そうとするのだろうか、それともさらけ出してしまうのだろうか。

「中佐…、俺、本当は」


失うのが、怖いんだ。

だから、持ちたくないんだ。

でも、欲しいんだよ。


ああ…狂いそうだ。



end



















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