ONLY YOU
いつの間にか眠っていたらしい。
着替えた中佐に揺り起こされた。
失態だとは思うが、他に逃げ場がなかったのも事実だ。

「珈琲、飲むでしょう?」

問い掛ける中佐からは、コロンの甘い香りがした。
黒のスクエアネックのワンピースと合わさって上品で女性らしい。
いつだって誉め言葉が出てくるのだから、随分自分は惚れ込んでるな、と思う。
珈琲をキープボトルに入れて車に乗った。
当初の予定より遅くなってしまったが、中佐の水着姿まで期待していないから、昼でも夜でもかまわなかった。



「海は、学生時代以来ですよ」

風にそよぐ髪が、夕陽に溶け込んで1枚の絵のように見える。
もっと髪が長ければ、とも思ったがこれは個人の好みがあるから仕方ない。
…それに、充分きれいだしさ。

「…バグダッシュ中佐」

す、と俺の口の前に指が立てられる。オーロラピンクのネイルがきれいな人差し 指。

「そういうことは、お嬢ちゃんみたいな可愛い人に言うべきですよ」

…告白する前から、フラなくたっていいじゃないか。

「俺が、嫌いか?」

単純な疑問をぶつけてみる。泣きたいのは格好悪いからか、情けないからか分からない。

「…貴方は、私には勿体ないですよ」

これがお世辞なら諦めもついただろうけど。
中佐の表情はたぶん、俺より泣きそうだった。

「中佐が、好きなんだよ」
「ですから、」
「中佐じゃなきゃ、いらない」
「提督、」
「中佐に、傍にいてほしい。中佐の、傍にいたい」

なんだこりゃ。俺は駄々っ子か。
もっとかっこよくキメるはずだったんだ。
こんなみっともない…泣きそうじゃないか。

「提督…駄目ですよ。私なんかが傍にいたら、貴方の印象が悪くなる」
「俺が、嫌いか?」
「それには、答えられません」

中佐の声は震えていた。
泣かせたいわけじゃないのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
元々ジャーナリスト志望の俺は、今すぐ退役したって構わないくらいなんだけど。
中佐は自由と平等の為に戦っている人で、俺といる事より軍にいる事を望むだろう。
俺のいる場所が中途半端に高いだけで、離れなければいけないんだろうか。
まさか同盟で、世間体がどうみたいな事を言われるとは思わなかった。

「わかった、じゃあさ……隠れて付き合おう!」
「……はっ?」

俺の言葉に中佐は鳩が豆鉄砲くらったような顔をたっぷりと10秒は見せ、それから腹を抱えて笑い出した。
俺としては、かなりの名案だと思ったんだが。

「貴方という人は…これ、お返しします」

中佐が出したのは、前に貸した幸運の鍵。
それって、つまり?

「私には、貴方がいれば十分ですから。これは他の方に渡してあげて下さい」

優美に微笑む彼女に見蕩れてしまった俺が、キスしていいタイミングだったと気付いたのはもっとずっと後のことだった。



end



















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