Le Petit Prince |
墓地に白い百合が供えられる。
墓で永久の眠りについているのは、グリーンヒル大将だ。
見本ともいえるような美しい敬礼をして、バグダッシュは黙祷を捧げた。
「此所に来る資格が無い事は、分かってはいるんですが…」
哀しみに染まった淡い灰青の瞳から、後悔と自責の念が読み取れる。
「大将は、希望を遺したんだと思う」
最初の救国軍事会議はクーデターなど目論んではいなかった筈だ。
グリーンヒル大将は勿論、バグダッシュ中佐も力による支配や改革を信じてはいなかっただろうから。
だから大将は、中佐をイゼルローンに送り込んで、救国の想いを遺そうとしたのだとアッテンボローは考えていた。
都合の良い解釈だとは思う、しかし救いが必要なのは国だけではない。
「中佐の、家族は?」
「家族の墓は、エル・ファシルにあります」
ハイネセンには留まっていたくなかったという事だろうか。
汚れた社会の犠牲になった者たちが、中佐の進む道標となっているようだ。
「提督の、ご家族は?」
元気だ、と告げるのは申し訳ないが、他に何と言いようがあるだろう。
人は平等ではないと知ってはいたが、神を恨みたくもなる。
「…会っていくといいよ。中佐の事、知ってるみたいだから」
キープボトルの珈琲はまだ熱い。
小さなカップに移し、冷ましながらゆっくりと飲む。
車は自動運転で、二人は後部座席に並んで座った。
バグダッシュがアッテンボローの肩に頭を預け、伏せ目がちの瞳で呟く。
「以前、名刺をいただいたことがあります。転職するかもしれないからと、裏に自宅の番号が書いてあって…一度もかけた事はありませんでしたが」
「…どうして」
「怖かったのかもしれません。かけた時、もうその人がこの世にいないのではないかと考えて…。でも名刺は今でも大切に持ち歩いているんです」
バグダッシュの瞳に、あたたかな光を見出して安心する。
父の何気ない行動が誇らしくさえ思えた。
「そっか。親父もいい事するじゃないか」
「貴方からの手紙も一緒ですよ」
「ええ!?」
「小さな王子様が、今では立派な星の王子様です」
くすくす笑う顔が幸せそうで、頼むから捨ててくれとは言えなかった。
でも、誰にも見せないでくれとは頼もうと思う。
end
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