サイン
アッテンボローが先ほどからずっと、何か言いたげにしている。

言葉を紡ぎだそうと中途半端に口を開いては、ため息に似た呼吸を繰り返して金魚のように口をぱくぱくさせるのに言葉は出てこない。
言いたい事が何か、バグダッシュにはなんとなくわかっていた。
彼の気質から言って、確認をとりたいのだろうが気恥ずかしさと不安で言えずにいるのだろう。
繋いだ手が汗ばむのが、可笑しくて愛おしい。

「…あのさ、その……キス、していいかな…」
「そういう事、今までも確認してきたんですか」

意地の悪い質問だ。
何よりも、自分の事を想ってだと知っているのに聞き返す。
気まずそうに視線を落として、言い訳を考える姿が可愛いと思っている。

「サイン、決めましょうか」
「え?」

上がった視線に微笑みを返して、一度手をほどく。
手のひらを合わせて、互いの指を交差させてしっかりと繋ぐ。

祈りの姿に似ている。
姿だけでなく、感情も近いものがあるかもしれない。

「…こうしてる時は、いいです」
「今は、いいってことか?」
「それを聞いたら、意味がないでしょう」

目を瞑って、視覚以外の感覚で相手を感じる。
ラムネのようなほのかに甘い香りと、温かさと柔らかさ、それに髪の揺れる音。

(困った方ですね…)

味のない可愛らしいキス。
もう一つサインを考えなければならないようだった。



end



















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